横浜地方裁判所 平成7年(行ウ)25号 判決 2000年5月24日
原告
小川喜雄
右訴訟代理人弁護士
岡村共栄
同
中込光一
同
岡村三穂
被告
小田原税務署長 加藤照雄
右指定代理人
住川洋英
同
須藤哲右
同
森口英昭
同
穂坂浩一
同
大矢勝昭
同
江島勝信
同
浅見光浩
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、原告に対し、平成五年三月五日付けでした原告の所得税についての次の処分を取り消す。
一 平成元年分の更正処分のうち事業所得の金額を四六六万六一八五円、納付すべき税額を二七万一六〇〇円とする部分を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分
二 平成二年分の更正処分(ただし、裁決によって変更された後のもの。)のうち原告の申告額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、裁決によって変更された後のもの)
三 平成三年分の更正処分(ただし、裁決によって変更された後のもの。)のうち原告の申告額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、裁決によって変更された後のもの)
第二事案の概要
一 事案
本件は、板金工事業を個人で営む原告の所得税について、被告がした推計課税が違法であるとして、原告が更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の一部取消しを求めたものであり、主要な争点は、臨場調査及び反面調査における手続上の違法性の有無、推計の必要性の有無、推計の合理性の有無及び実額反証の当否である。
二 争いのない事実
1 原告
原告は、板金工事業を営む個人事業者である。
2 本件申告
(一) 原告は、平成元年分、同二年分及び同三年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税の確定申告書に次のとおり記載し、いわゆる白色申告の方法により、法定申告期限までに申告した(以下「本件申告」という。)。
イ 平成元年分
事業所得の金額 三一四万四二一六円
納付すべき税額 一一万九四〇〇円
ロ 平成二年分
事業所得の金額 三一〇万八三三九円
納付すべき税額 一一万七二〇〇円
ハ 平成三年分
事業所得の金額 三二一万九八六四円
納付すべき税額 一三万三六〇〇円
(二) 本件申告の際の確定申告書には、所得金額の計算欄にいずれも事業所得の金額が記載されていたにとどまり、右事業所得に係る総収入金額は記載されておらず、事業所得に係る総収入金額及び必要経費の内容を記載した内訳書は添付されていなかった。
3 本件調査
小田原税務署の係官である菊島義昭(以下「菊島係官」という。)は、平成四年一〇月一三日、原告宅に臨場し、原告の所得税に関する調査(以下「本件臨場調査」という。)を行ったが、その際、調査の場所には、原告及び原告の家族のほか、小田原民主商工会(以下「小田原民商」という。)の関係者がいた。菊島係官は、帳簿書類の閲覧検査を行わず、臨場後一〇分ないし一五分で原告宅を辞去した。その後、被告は、原告についていわゆる反面調査(以下「本件反面調査」という。)を行ったが、本件反面調査の対象者の中には、原告と本件各係争年分において取引が無いことが判明した者が含まれていた。
4 本件処分
被告は、本件申告に対し、平成五年三月五日付けで、事業所得の金額及び納付すべき税額を次のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を次のとおりとする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて、以下「本件処分」という。)を行った。
イ 平成元年分
事業所得の金額 五四六万四六一五円
納付すべき税額 四〇万二八〇〇円
過少申告加算税の額 二万八〇〇〇円
ロ 平成二年分
事業所得の金額 五四三万三七一三円
納付すべき税額 三九万九六〇〇円
過少申告加算税の額 二万八〇〇〇円
ハ 平成三年分
事業所得の金額 四九八万〇三一九円
納付すべき税額 三一万九二〇〇円
過少申告加算税の額 一万八〇〇〇円
5 異議決定及び裁決
原告は平成五年五月五日被告に対し異議を申し立て、被告は同年八月五日これを棄却する決定をした。原告は同年九月三日国税不服審判所長に対し審査請求をし、国税不服審判所長は平成七年五月一〇日付けで平成元年分については棄却し、平成二年分及び同三年分については、事業所得の金額、納付すべき税額及び過少申告加算税の額を次のとおりとする本件処分の一部取消しの裁決を行い、原告に対し、裁決書謄本を送達した。
イ 平成二年分
事業所得の金額 四七〇万五〇七四円
納付すべき税額 二七万六九〇〇円
過少申告加算税の額 一万五〇〇〇円
ロ 平成三年分
事業所得の金額 四七三万一七三九円
納付すべき税額 二八万四七〇〇円
過少申告加算税の額 一万五〇〇〇円
三 主要な争点及び当事者の主張
1 本件臨場調査及び本件反面調査における手続上の違法性の有無(争点1)
(一) 第三者の立会い拒否の違法性の有無
(1) 原告の主張
所得税法(以下「法」という。)二三四条に基づく質問検査権の行使は任意調査なのであるから、納税者の都合を尊重し営業の妨げにならないよう配慮すべきことは当然である。原告は、本件臨場調査当日、関係する帳簿書類を用意し、これを応対に使用していた和室テーブルの脇に置いた上で、菊島係官に対し調査に応ずる旨を言明し帳簿等の閲覧を要請した。しかし、菊島係官は、原告が依頼した小田原民商の関係者がその場にいることを理由に、わずか一〇分原告宅に滞在しただけで、質問も帳簿書類の閲覧もすることなくその場を辞去したのであるが、これは立会人をあえて拒否するためのものであった。税務調査において当該職員に守秘義務が課せられており、調査の実施について一定の限度で職員の裁量に委ねられるべきとしても、任意調査である以上、職員の独断と恣意的な裁量によって納税者にどれほど迷惑をかけても構わないというものではない。本件臨場調査においても、守秘義務を全うすることに配慮しながらも、帳簿書類の閲覧等の最低限の調査を行うこと、納税者の業種・業態・規模等を質問すること、取引銀行・仕入先等を質問すること等は可能であり、これによって取引の相手方の秘密の保持を損なう危惧はない。菊島係員が本件臨場調査を打ち切ったことは、調査における裁量権を逸脱した権利濫用に当たる。
よって、本件臨場調査は違法である。
(2) 被告の主張
法二三四条に基づく質問検査権の行使に当たり、調査の方法等実定法上特段の定めのない実施の細目については、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられている(最高裁第一小法廷昭和五八年七月一四日判決・訟務月報三〇巻一号一五一頁)。したがって、調査の担当者が第三者の立会いを拒否するには積極的な理由を必要とするものではなく、立会いの拒否は社会通念上著しく妥当性を欠き裁量権を濫用したと認めるべき特段の事情がない限り違法とはいえない。まして、公務員の守秘義務や税理士法に抵触する疑いがある場合に第三者の立会いを拒否することは、当然であり、調査の担当者の裁量権限の範囲を逸脱したものとはいえない。本件において、菊島係官は、原告に対し、調査に無関係の第三者が同席していると、質問検査の内容が第三者に漏れ、同係官に課せられた守秘義務を全うすることができず、また、税理士資格のない者が立ち会うことは税理士法違反となり得ると判断し、再三にわたり、右事由を説明し、第三者の立会いのないところでの調査協力を依頼したものであり、これは税務職員に与えられた合理的な裁量の範囲内の行為である。
よって、本件臨場調査に違法はない。
(二) 本件反面調査の違法性の有無
(1) 原告の主張
法二三四条一項三号の質問調査の相手方は、直接に納税の義務を負う者ではなく、法により法定資料の提出を義務付けられたものでもないから、その調査の範囲は、同項一・二号の調査よりさらに厳格に解すべきものであり、同項一号の納税者の調査だけではどうしても課税標準及び税額等の内容が把握できないことが明らかになった場合に限り、かつ、その限度において可能であると解すべきである(静岡地裁昭和四七年二月九日判決・判時六五九号三六頁・判タ二七五号一九二頁。甲六七)。
また、同項三号は調査の相手方の範囲を限定的に定めており、同項三号の「認められる者」とは、一号に掲げる者と取引関係があり、客観的に当該権利関係を推認し得る程度の外形を備えた者でなければならないと解される。ところが、菊島係官は、本件において、小田原市及び南足柄市の建築関係の法人のすべて及び一定収入以上の建築関係の個人を対象に反面調査を行っており、明らかに右の規定に違反している。
よって、本件反面調査は、反面調査の必要性及び対象の点で、違法である。
(2) 被告の主張
本件では、立会人のいない状況で調査を実施することは不可能であったから、本件臨場調査の終了後、その日のうちに反面調査を開始したことは、税務職員に与えられた合理的な裁量の範囲内の行為である。
また、法二三四条一項一号の「納税義務があると認められる者」とは、権限のある税務職員の判断によって、納税義務がある者に該当すると合理的に推認されるものと解され(最高裁第三小法廷昭和四八年七月一〇日決定・刑集二七巻七号一二〇五頁)、同項三号の「認められる者」という文言も、同様に、取引がある者に該当すると合理的に推認される者をいうと解される。課税庁の収集できる情報・資料にも限界があるので、質問検査の対象者をことさら限定すると、非協力的な納税者についてほど正確な所得金額の確認ができないという不合理かつ不公平な結果となる。原告が引用する裁判例(前掲静岡地裁昭和四七年二月九日判決)の控訴審判決(東京高裁昭和五〇年三月二五日判決・判時七八〇号三〇頁)も、「所得税法二三四条一項所定の質問検査を必要とする客観的理由が(中略)具体的事情によって肯定される限り、その対象者を同条項一号所定の納税義務者等に限定するか、又は三号所定の者にまで押し及ぼすか、その順序、方法等をどのようにするか等は、(中略)実定法上特段の定めのない実施の細目的事項にほかならず、当該調査の必要性と相手方の私的利益とを比較衡量し社会通念上相当な限度内である限り、権限ある税務職員の合理的選択に委ねられているものと解すべく、原判決のように三号の反面調査が法律上一号の臨宅調査等の補充的規定であって、後者の調査が不可能である場合に限り許されるものと解すべきではない。」と判示している。本件において、菊島係官は、次の基準により、原告と取引がある者に該当すると合理的に推認される必要最小限の範囲の者を反面調査の対象とした。
ア 金融機関等に対する取引照会は、原告の住所地が大雄山線の沿線に当たることから、同線の沿線に店舗を有する金融機関等及び原告宅から比較的近くに店舗がある金融機関等に対して行った。
イ 収入に関する取引先照会は、まず、地域を限定するため、小田原税務署の管轄地域(小田原市、南足柄市、箱根町、真鶴町、湯河原町、松田町、大井町、中井町、開成町及び山北町)のうち、原告が板金工事の仕事を依頼される蓋然性の高い者、すなわち原告の住所地である南足柄市内及び同市に隣接し、右税務署管内の交通、経済等の中心地である小田原市内に納税地を有している者とした。また、法人事業者については、専ら木造の建築工事業を行っている事業者(以下「木造建築業者」という。)である法人を、個人事業者については、収入金額が一〇〇〇万円以上の木造建築業者をそれぞれ業種別名簿により悉皆抽出した(個人事業者について、収入金額一〇〇〇万円以上との条件を設定したのは、右金額以上の収入があれば、一般的に外注費等の支出がある蓋然性が高いとの経験則による。また、木造建築業者以外の者(一般家庭等)からの修繕等に係る収入については、地域を限定してもその対象者の範囲を特定しにくいことから、原告に工事を依頼したことが部内簿等で確認できた者に限定した。)。
ウ 仕入れに関する取引先照会については、被告が過去に行った板金工事業者に対する調査において、右税務署管内における板金工事業者に材料等を販売している業者を既に把握していたため、当該業者に照会した。
よって、本件反面調査には、反面調査の必要性の点でも、対照の点でも、違法はない。
(三) 調査手続の違法性と本件処分の適否の関係
(1) 被告の主張
国税通則法二四条、法二三四条等に規定された調査は、課税庁が課税要件の内容をなす具体的事実の存否を調査するための手続にすぎないのであって、この調査手続自体が課税要件となることはあり得ない。また、更正処分の取消訴訟は、客観的に所得の有無を争う訴訟と解すべきであるから、違法な手続によって収集した資料に基づく行政処分であっても、右違法が極めて重大な場合は格別、そうでない限り、客観的な所得に合致する限度では取消事由とはならない(大阪地裁昭和五八年七月二八日判決・判タ五三四号一七九頁)。
本件において、原告は、本件臨場調査における第三者の立会い拒否の違法性及び本件反面調査の法二三四条一項三号違反を主張するにすぎないから、仮にこれらの違法性が認められるとしても、その違法は更正処分を取り消す必要が認められるだけの極めて重大なものと評価することはできない。
よって、調査手続の違法を理由に本件処分の取消しを求める原告の主張は失当である。
(2) 原告の主張
被告の右主張は争う。
2 推計の必要性の有無(争点2)
(一) 被告の主張
原告は、本件臨場調査の際、菊島係官から再三にわたり、第三者を退席させた上で調査に協力し帳簿書類を提示するよう求められたにもかかわらず、立会人の同席に固執し続け、また、菊島係官を忌避する旨の発言をするなど、全く調査に協力する姿勢を見せず、非協力的な態度に終始していた。このような状況では、原告の協力を得て、その収入金額及び必要経費の実額を帳簿等に基づいて把握することは不可能であった。
よって、推計の必要性は認められる。
(二) 原告の主張
原告は、被告の調査に応ずる意思を明確に表明していた。菊島係官は、原告宅に小田原民商の関係者が同席していることを理由に調査に入ろうとせず、わずか一〇分余りの滞在で原告宅を辞去し、四〇〇件以上の違法な反面調査を行った。右の四〇〇件以上の違法な反面調査によって、原告が被告に対する態度を硬化させたこともやむを得ない。仮に菊島係官にその場における裁量権があるとしても、わずか一〇分余りの滞在期間で、調査の対象者に対し調査への理解と協力を得ようとするのは無理がある。十分な時間をかけて説得すれば、その場で調査を行うことができたかもしれない。少なくとも、原告側に非協力といった対応はなかった。
よって、推計の必要性は認められない。
3 推計の合理性の有無(争点3)
(一) 被告の主張
(1) 本件処分の根拠
本件においては、原告の取引先の調査により把握し得た原告の本件各係争年分の請負工事収入金額及び手間収入金額に、請負工事収入及び手間収入に係る各比準同業者の平均特前所得率を乗じて算出した金額を合計して、原告の本件各係争年分の事業所得の金額を次のとおりとした。その具体的な計算内容は、別紙乙の一のとおりであり、比準同業者の選定基準は、同別紙の二のとおりである。被告は、本件訴訟において、この金額を原告の事業所得の金額と主張する。
イ 平成元年分
事業所得の金額 六二五万三九五〇円
ロ 平成二年分
事業所得の金額 五七八万三二一五円
ハ 平成三年分
事業所得の金額 六一九万六五二七円
本件更正処分(平成二年分及び同三年分については、裁決による一部取消後のもの)に係る原告の事業所得の金額は、前記二4及び5のとおりであって、いずれの年分についても、被告が本訴で主張する右事業所得の金額の範囲内であるから、本件更正処分はいずれも適法である。
また、原告は、本件各係争年分に係る総所得金額をいずれも過少に申告していたので、被告は、本件更正処分(平成二年分及び同三年分については、裁決による一部取消し後の金額)により原告が新たに納付すべきこととなった所得税額(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の金額を切り捨てた後の金額)すなわち、<1>平成元年分については二八万円、<2>平成二年分については一五万円、<3>平成三年分については一五万円をそれぞれ基礎として、国税通則法六五条一項の規定に基づいて、前記二4及び5のとおり過少申告加算税をそれぞれ賦課決定したのであり、右賦課決定処分はいずれも適法である。
(2) 推計の合理性
被告は、本件各係争年分ごとに、請負工事収入のみがある者については別紙乙の二1の抽出基準のすべてを満たしている者、手間収入のみがある者については同2の抽出基準のすべてを満たしている者を、それぞれ比準同業者として機械的に、かつ、漏れなく抽出したのであるから、右抽出に恣意が介在する余地はない。また、その抽出地域は、原告の事業所が所在する小田原税務署及び小田原税務署に隣接する平塚税務署管内に限定していることから、地域の類似性も担保されており、かつ、抽出された比準同業者は、原告と業種及びその事業規模等が類似する青色申告者である。
原告は、手間収入の比準同業者数が少数にすぎ、そのため、年分によって所得率の開差が大きくなっているので、被告としては、同業者の抽出範囲を他の税務署の管内まで広げるべきであった旨を主張する。しかし、本件における手間収入の比準同業者は二件ないし四件確保されているのであるから、これによって個別的な事情は十分に吸収され捨象されている。原告の主張するように比準同業者の抽出対象地域を他の税務署の管内まで広げると、逆に立地条件の類似性が損なわれるおそれが大きくなる。また、年分によって所得率の開差が大きいとしても、年分ごとに経済情勢や社会情勢が異なっており、収入金額も相違しているのであるから、所得率が変動すること自体に不合理な点はない。
(二) 原告の主張
(1) 総収入金額の不正確性
被告は、本件各係争年分の原告の総収入金額につき、原告の取引先の調査により請負工事収入金額及び手間収入金額を把握したと主張する。しかし、別紙乙の1のⅠ7欄に、平成三年分の請負工事収入として有限会社村武建設(以下「村武建設」という。)からの六六万八四二〇円が計上されているが、原告は村武建設とは全く取引がない。原告において調査したところ、村武建設と取引があったのは、原告の弟である小川福司(神奈川県南足柄市塚原一六五五番地)であることが判明した。よって、右六六万八四二〇円を平成三年分の原告の収入として計算することは誤りである。
(2) 推計の不合理性
被告は、原告の事業所得を推計するに当たり、原告の請負工事収入及び手間収入に対して比準同業者の平均特前所得率を乗じているが、手間収入に係る比準同業者の平均特前所得率は、平成元年分が〇・六四二四、平成二年分が〇・九一八四、平成三年分が〇・七八三四と、六割台、九割台、七割台と推移している。請負工事収入に係る所得率が、平成元年から平成三年まで、〇・三七四二、〇・四三二七、〇・四二六二とほぼ一定の水準にあることと比べれば、手間収入に係る所得率の不当性は明白である。これは、手間収入に係る比準同業者が、平成元年は三業者、平成二年はわずか二業者、平成三年も四業者しか抽出されていないことによる。このように比準同業者の数が少なければ、その業者の特殊性が顕著となり、平均的な所得率を得ることは不可能である。このような場合、比準同業者の選択の範囲を他の税務署の管内まで広げるなどして数を増やし、平均性を高めるべきである。本件における比準同業者の所得率は、右の意味で、客観性・合理性を持たない。
4 実額反証の当否(争点4)
(一) 原告の主張
原告の事業所得の実額は次のとおりであり、その内訳は、平成元年分については別紙甲の1の平成元年集計表、同二年分については同2の平成二年集計表、同三年分については同3の平成三年集計表のとおりである。
イ 平成元年分
事業所得の金額 四六六万六一八五円
納付すべき税額 二七万一六〇〇円
ロ 平成二年分
事業所得の金額 二三七万四二〇九円
納付すべき税額 四万三八〇〇円
ハ 平成三年分
事業所得の金額 二五五万三六四九円
納付すべき税額 六万六九〇〇円
平成元年分の本件更正処分に係る事業所得の金額は、前記二4のとおりであり、右のイの金額を超えているから、その限りで被告の右処分は違法であり、これを前提とする本件賦課決定処分も違法である。
なお、平成二年分及び同三年分の右実額は、本件申告における申告額を下回っているので、本件処分のうち右各年分に係るものについては、申告額を上回る部分について取消しを求める。
(二) 被告の主張
原告は、その実額の主張の基礎となる事業に係る取引を継続的に記録した会計帳簿を提出しておらず、原告が主張する総収入金額が原告のすべての取引先からの総収入金額であることも、その主張する経費を実際に支出したことも、総収入金額と必要経費との個別的・具体的な対応関係についても、何ら具体的な主張・立証をしていないといわざるを得ず、原告の提出に係る証拠から、原告の本件各係争年分の事業所得の金額を実額で計算することはおよそ不可能である。
第三当裁判所の判断
一 本件処分に至る経緯
原告は、本件処分の違法事由として、本件臨場調査及び本件反面調査における手続上の違法性並びに推計の必要性の欠如を主張する。そこで、これらの点について判断するため、本件処分に至る経緯について検討することとする。
前記第二の二の争いのない事実、証拠(甲一ないし三・六九、乙六・七・九・一〇)及び弁論の全趣旨によれば、本件処分に至る経緯に関し、以下の事実が認められる。
1 調査の端緒
小田原税務署の奥俊治統括国税調査官(以下「奥統括官」という。)は、平成四年七月中旬、菊島係官に対し、数件の調査を行うよう指示をしたが、その中に、原告の本件各係争年分の所得税に関するものが含まれていた。奥統括官が原告について右の調査を指示した理由は、原告の確定申告書には、所得金額を計算するための収入金額及び必要経費の金額が記載されておらず、また、収支内訳書の提出もなく、所得金額の計算の根拠及び過程が不明であり、申告された所得金額が正しいかどうかを確認する必要があるというものであった。
2 調査の開始
菊島係官は、平成四年九月三〇日、事前に連絡することなく、原告宅に赴いたが、原告本人は不在であり、応対した原告の娘である小川ノリ子は、事業の内容・取引等については全く分からないなどと述べたので、同年一〇月二日午前一〇時に再度調査に伺う旨を記載した不在票を同女に交付した。その翌日(一〇月一日)、原告の息子である小川勝也(以下「勝也」という。)から、右の指定の日時は都合が悪いので同月一三日午前一〇時に調査を延期してほしい旨の申し出があり、菊島係官はこれを了承した。
3 本件臨場調査の状況
菊島係官は、平成四年一〇月一三日午前一〇時ころ、原告宅に臨場した。案内された八畳間には、原告のほか、吉田好夫、荻島東海夫及び市川花子が座っており、その後、勝也及び原告の妻である小川千恵子(以下「千恵子」という。)が入室してきた。
右の吉田好夫、荻島東海夫及び市川花子は、小田原民商において原告とともに記帳の勉強会をするということはあったが、原告の事業についての実際の記帳(ただし、後記五2(一)のとおり、請求書や領収書の作成であって、帳簿の記帳ではない。)は勝也が行っており、これらの三名は記帳をしていた者ではなかった。
菊島係官は、関係のない第三者が同席している状況で調査を進めることは、公務員の守秘義務に抵触するおそれがあると判断し、原告に対し、関係のない第三者を退席させた上で帳簿書類を提示するよう求めるとともに、自分には守秘義務があり、その会話内容が他に漏れるような状況では調査はできない旨を説明した。これに対し、原告は終始無言であり、勝也が、「同席者はいつも一緒にやってもらっている仲間であり、関係のない者ではない、実際に仕事をしているのは自分であり、原告ではないから、自分に言うように。」などと述べ、前記立会人ら(吉田好夫、荻島東海夫及び市川花子)は、「立会いをなぜ認めないのか、税務署も、全国的に立会いを認めていないわけではない、どの法律に立会いが認められないと書いてあるのだ。」などと口々に述べるような状態であった。
菊島係官は、これらの発言を相手にせず、原告に対し、再三にわたり、第三者を退席させた上で帳簿書類を提示するよう求めたが、原告は無言であり、勝也は怒った口調で、「しつこいな。一回言えば、分かるんだよ。親父、こっちへ来いよ。」と言って、原告を手招きし、これに応じて動いた原告の顔が菊島係官から見えないよう、自分の後ろに座らせ、原告と菊島係官が直接話ができないようにした。これに対し、菊島係官が、「これでは調査はできませんね。」と言うと、勝也は、感情を高ぶらせ、「守秘義務は、あんたにあるんだろう。こちらにはない。みんな知っているから、気にしないで、みんなの前でやればいいじゃないか。立会人らは仕事を休んで来ているから日当を払ってほしい。」などと述べた。
右の八畳間には、帳簿書類等調査に必要な書類は、座卓の上及び菊島係官から見えるところには置かれておらず、原告又は勝也から、帳簿書類はここにある、帳簿書類を見てほしいなどとの言葉はなかった。
菊島係官は、このような状況では、原告又は勝也が、前記の立会人らを退席させ、調査可能な状況にしてもらうことはできないと判断し、原告に対し、「原告が調査に応じてもらえず、原告の本件各係争年分の事業所得に係る収入金額等を確認すること等ができなかったので、税務署の方で独自に調査を行わざるを得ない。」と告げ、午前一〇時一五分ころ、原告宅を辞去した。
4 反面調査の開始
(一) 菊島係官は、帰署後、奥統括官に調査の状況等を報告した上で、奥統括官と今後の調査の進め方について検討したが、今後説得を継続したとしても、原告及び勝也の態度等からすれば、近いうちに第三者の立会いなしに調査に応じてもらえるとは考えられない旨判断した。そこで、今後も説得を継続する一方で、本件各係争年分の事業所得に係る収入金額及び仕入金額等を確認するために必要な反面調査を行うこととし、取引照会文書を送るための資料の収集及び発送手続を同日(平成四年一〇月一三日)午後に開始することとした。
(二) 菊島係官は、原告が事業概況等についても何ら答えなかったこと、売上げ等に関する資料・情報もほとんどなかったことから、取引金融機関等を把握するため、原告住居のある大雄山線沿線に店舗を有する金融機関等に取引照会文書を発送した。
また、材料等の仕入先として、過去の板金工事業者に対する調査で把握していた小田原税務署管内の板金工事の材料店に対し、取引照会文書を発送した。
次に、原告の収入先としては、本件各係争年分の確定申告書の職業欄に「板金」と記載されていたこと、過去の調査の内容から原告の事業が一般的な屋根工事を中心とする板金工事業であると推定できたところ、板金工事の仕事を発注するのは、主に建築業のうち専ら木造の建築業を営む事業者(木造建築業者)であることから、木造建築業を営む法人及び個人の業者を業者別名簿から抽出することとした。その際、原告が地元の業者と取引をする蓋然性が高いことから、原告の納税地である南足柄市に納税地を有する事業者と、南足柄市と地理的に隣接し、小田原税務署管内の経済の中心地でもあり、鉄道・道路なども通じている小田原市に納税地を有する事業者を抽出した。
事業規模が大きい法人の業者は、外注費等の金額も多いことからその全部を対象とし、個人の業者は、外注費の支払がある蓋然性の高い、収入金額が一〇〇〇万円以上の業者を対象とした。一方、一般家庭等からの修繕等の工事に係る現金収入等に関しては、その対象が広範すぎて特定できないことから、取引照会の対象とはしなかった。
(三) 上記の抽出作業を同日(平成四年一〇月一三日)午後に開始し、金融機関及び仕入先のものについてはその日のうちに発送をした。収入先に対するものは、翌日から数日の間に数回に分けて発送をした。
照会書には、「あなたの取引先である(中略)小川喜雄様の税務調査の参考にしたいと思いますので自平成元年一月一日至平成三年一二月三一日間の各月について、あなたとの取引金額等を下欄にご記入の上、一〇月二三日ごろまでにご回答ください。」のように記載されていた。
(四) 原告方には、その後、一週間ほどの間、反面調査の対象とされた者からの苦情の電話が多数かかってきた。
5 再臨場調査の状況
菊島係官は、平成四年一一月二五日午前一一時二〇分ころ、事前の連絡無く原告宅に臨場した。庭先に居た原告に、立会いのないところで調査に応じる意思を確認したところ、原告は、「すべて任せているから。」と述べた上で、「なぜあんなにたくさん照会したのか、一日に二〇本も電話が来た。」と、菊島係官を非難した。
そのうち勝也が現れ、菊島係官に、「何しに来たんだ。」と言うとともに、原告を家の中に押し入れ、原告と話がしたいと述べる菊島係官に対し、「今、腹痛でトイレだ。」などと言って原告と会わせようとせず、かえって、多数の照会先に照会を行ったことを非難し、「弁護士を付けて告訴する。」「あんた、うちをつぶす気か。」などと言い立て、諦めて帰ろうとする菊島係官を「民商を呼んだから帰るな。」と引き留めた。これに対し、菊島係官は「関係ない者が来るならば帰る。」と述べたので、勝也は原告を玄関に呼んだ。菊島係官は、原告に立会いなく調査を受ける意思を確認するため、「守秘義務があるため第三者のいるところでは調査が行えない、税理士資格のない者を調査に立ち会わせることは税理士法に違反するおそれがある。」と説明したが、原告は、「吉田が立ち会わないと調査を受けない。」旨を述べた。
菊島係官は、「そうすると、税務署で独自に調査をしなければならず、銀行、仕入先、得意先で確認しなければならない。立会いなく調査をする気になったら、電話をするように。」と告げた。そのようなやり取りをしていたところ、小田原民商の事務局長である吉田耕三と女性が、午後〇時一五分ころ、現れた。第三者が現れたため菊島係官は辞去しようとしたが、勝也は玄関を外から押さえて菊島係官が出られないようにした。菊島係官が玄関の引き戸を開けようとしたところ、勝也が「痛い。痛い。」「病院に行かなきゃいけないな。」などと大声で騒いだので、菊島係官は辞去するのを諦めて話を聞くこととした。吉田耕三は、菊島係官に対し、「営業妨害をしたことで告訴をする。菊島係官は忌避する。」などと述べた。菊島係官は、原告に対し、「原告も同じように考えているのか。」と確認したところ、原告はこれをこれを肯定したため、菊島係官は、原告宅にこれ以上滞在する理由はないと考え、午後〇時二〇分ころ、原告宅を辞去した。
6 その後の状況
その後、原告から菊島係官に対し連絡は無かった。菊島係官は、平成四年一一月二六日、原告宅に赴いたが、原告は不在であった。菊島係官は、応対した千恵子に対し、「臨場したが不在であったこと、協力してもらえるのであれば、同月三〇日午前八時三〇分から九時の間に電話をしてほしい」旨を記載した不在票を交付して帰署したが、その後も原告からは何の連絡も無かった。菊島係官は、平成五年一月二二日、原告宅に再度赴いたが、原告は不在であり、応対した千恵子に、「調査を進めており、結果が出たら知らせること、第三者の立会いのないところで調査に応じる意思があればいつでも連絡するように」と原告への伝言を依頼した。菊島係官は、平成五年二月二五日、原告宅に赴いたが、原告は不在とのことであり、応対した千恵子に、調査の結果を伝えたいので連絡が欲しいが、連絡が無ければ調査額を文書で通知する旨の伝言をした。しかし、三月一日を過ぎても原告から連絡が無かったので、被告は本件処分を行った。
以上のとおり認められ、これに反する証拠は採用することができない。
二 本件調査の手続的違法性の有無について(争点1)
1 課税手続の違法性と本件処分の適否の関係
原告は、本件処分の違法事由として、本件臨場調査における第三者の立会い拒否の違法性及び本件反面調査の法二三四条一項三号違反を主張する。
しかし、法二三四条一項所定の調査は、租税実体法によって成立した抽象的な納税義務を具体的に確定するための事実行為であり、課税処分とは別個のものであるから、調査手続の違法が、それ自体刑罰法規に触れ、又は公序良俗に反する等、税務調査を行ったとはいえないほどの著しい違法性が存するなどの特段の事情がない限り、課税処分の取消事由に当たらないと解する。
本件についてこれを見ると、原告は、右のとおりの違法事由を主張するにすぎず、仮にこの点についての原告の主張が認められたとしても、右の特段の事情があるとまではいえず、原告の主張は失当であると解する。
2 本件臨場調査及び本件反面調査の適否
(一) 第三者の立会い拒否の適否
調査を実施する際に第三者の立会いを認めるか否かについて定めた法令はなく、実定法上特段の定めのない質問検査の実施の細目については、質問検査の客観的な必要性があり、かつ、これと相手方の私的利益の衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解される(前掲最高裁第三小法廷昭和四八年七月一〇日決定)。そして、税務職員のした具体的な調査に右の合理性があるか否かは、調査の必要性と被調査者の利益保護の必要性との衡量の上に立って検討すべきものと解される。
そこで、本件について右合理性の有無について見ると、税務調査においては税務職員の質問と被調査者の回答の内容は、被調査者本人のみならず、その取引の相手方の営業上の秘密に及ぶこともあるから、調査の状況いかんによっては、右秘密が立会いの第三者に漏れ、税務職員がその守秘義務(国家公務員法一〇〇条一項、法二四三条)を遵守することができないおそれがある。しかも、前記認定事実によれば、請求書等を作成していた身内の勝也はさておき、調査の現場に立ち会っていた小田原民商の関係者は、原告の記帳を補助していた者ではないと認められる。したがって、菊島係官が民商関係者の立会いを拒否することには合理性があったというべきである。
また、前記認定事実によれば、本件においては、菊島係官が原告に質問等を行おうとしても、勝也やその他の第三者に遮られ、また、勝也は、原告の顔が菊島係官から見えないよう、原告を自分の後ろに座らせるなどしており、勝也及び民商関係者の立会いが許されなければ調査に応じないとする原告側の意思は極めて強固であったと認められる。このような状況では、菊島係官がこれらの者の立会いの下では十分な調査を行うことが見込まれないとして、時間をかけ重ねて説得をするなどしないで、比較的短時間の臨場後に調査を打ち切ったことも首肯することができる。
よって、本件において、第三者の立会い拒否に違法はない。
(二) 本件反面調査における法二三四条一項三号違反の有無
法二三四条一項三号の「第一号に掲げる者に金銭若しくは物品の給付をする義務があったと認められる者若しくは当該義務があると認められる者又は同号に掲げる者から金銭若しくは物品の給付を受ける権利があったと認められる者若しくは当該権利があると認められる者」という文言における「認められる者」とは、権限ある税務職員の判断によって、これらの者に該当すると合理的に推認される者をいうと解すべきであり、また、右の「合理的に推認される者」に当たるか否かの判断は、被調査者の協力の程度及び税務職員が既に得ている資料の質・量との相関において判断されるべきものであると解される。そして、右の合理的に推認される者に対し調査を行ったところ、結果として調査の対象が客観的には納税義務者の取引先以外の者に及んだことがあったとしても、税務職員が取引先でないことを知らず、かつ、当該納税者について税務調査の手がかりとなる情報を取得する方法が他にないときには、特段の事情がない限り、その調査は違法とはならないと解される。
本件についてこれを見ると、原告らの頑なな第三者立会下での調査要請の結果、菊島係官は、原告の帳簿書類等を全く見ることができず、また、原告の事業概況等についても質問をすることができず、他に原告の取引先についての情報も待ち合わせていなかったのであるから、原告の住居の所在地を中心にその業態から取引の可能性があると考えられる相手をある程度広く調査対象とすることはやむを得ないことというべきであり、このような場合の反面調査の相手先は、法二三四条一項三号の「第一号に掲げる者に金銭若しくは物品の給付をする義務があったと認められる者若しくは当該義務があると認められる者又は同号に掲げる者から金銭若しくは物品の給付を受ける権利があったと認められる者若しくは当該権利があると認められる者」に当たると解することができる。
また、本件において、菊島係官は、本件調査の終了後数日のうちに多数の者に一斉に調査を行っているのであるが、前記のように原告側において第三者立会いの下でなければ調査に応じないという意思が極めて強固であり、その考え方の変更方について重ねて折衝してみてもまず徒労に終わるであろうと予想されたので、菊島係官が重ねての臨場調査によっても原告の事業内容についての情報の入手ができないとの判断の下に、直ちに反面調査に着手したことに、違法はない。
よって、本件反面調査に違法はない。
三 推計の必要性の有無(争点2)について
所得税は、真実の所得金額(実額)に対して課税するのであるが、信頼できる資料が存在せず、又は納税者の協力が得られないなどの理由により、課税庁が納税義務者の課税標準を正確に把握することができない場合に課税を放棄することは、国民の納税義務及び租税負担公平の原則から許されない。そこで、このような場合に合理的な方法で課税標準を算定することを課税庁に許容したものが推計課税の制度であるから、右のようにやむを得ない事情が存すること、すなわち推計の必要性が存することが推計課税の適法性の要件であり、このような推計の必要性については、課税庁である被告が主張立証すべきであると解される。
そこで、本件について推計の必要性の有無について見ると、本件申告の際の確定申告書の所得金額の計算欄には、いずれも事業所得の金額が記載されていたにとどまり、右事業所得に係る総収入金額は記載されておらず、事業所得に係る総収入金額及び必要経費の内容を記載した内訳書は添付されていなかったこと、そのため、原告の申告に係る所得金額が正しいかどうかを確認する目的で菊島係官が原告宅に調査に赴いたが、原告が小田原民商の関係者の立会いを求め、菊島係官の再三の説得にもかかわらず右第三者を退席させる様子がなかったこと、菊島係官が原告に質問等を行おうとしても、勝也や小田原民商の会員に遮られたこと、勝也は、原告の顔が見えないよう、原告を自分の後ろに座らせるなどし、菊島係官の調査を妨害しようとしたこと、そのため菊島係官は臨場から約一五分で本件調査を打ち切ったこと、以上の事実は、前記第二の二の争いのない事実及び前記第三の一における認定のとおりである。
これらによれば、被告は、納税者である原告の協力が得られなかったため、その課税標準を正確に把握することができなかったというべきである。よって、推計の必要性が認められる。
四 推計の合理性の有無(争点3)について
1 被告の推計の方法
証拠(乙一一ないし一九)及び弁論の全趣旨(原告の一九九七年(平成九年)一月二九日付け準備書面及び一九九九年(平成一一年)二月二四日付け準備書面による原告の自認額)によれば、原告の総収入金額(請負工事収入及び手間収入)は、別紙乙の一1ないし3(その内訳は別紙乙の1)のとおりと認めることができる。そして、証拠(乙二、乙三の一ないし六、乙四、乙五の一ないし六、乙二〇・二一、証人中澤幸夫)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、請負工事収入に係る比準同業者については別紙乙の2の1ないし3の各Ⅰ(小田原税務所管内分と平塚税務署管内分とを便宜まとめて記載したもの。後記の同各Ⅱでも同様。)の、手間収入に係る比準同業者については別紙乙の2の1ないし3の各Ⅱの比準同業者を抽出して、比準同業者の特前所得金額(総収入金額から売上原価及び経費の額を控除して算定した青色申告特典控除前の所得金額)の割合(平均特前所得率)を、請負工事収入及び手間収入それぞれについて算出し、原告の前記請負工事収入及び手間収入にこの平均特前所得率を乗じて、事業所得の金額を算出したことを認めることができる。そして、右の比準同業者抽出のための方法に偏りがなく、被告の恣意の介在する余地が認められないことは、証拠(乙二〇・二一、証人中澤幸夫)及び弁論の全趣旨から明らかである。さらに、本件における比準同業者の抽出基準の骨子は、原告が住所及び事業所を有する小田原税務署管内及びこれに隣接する平塚税務署管内を抽出地域とし、収入金額の規模についていわゆる倍半基準を満たしている板金工事業を営む者というのであり、右基準は、営業地域、業務の規模及び業務の内容において原告と著しい格差を示す特殊な同業者を排除するものである。そして、これらの調査の結果の数値は、青色申告書に基づいたものであり、またその申告も確定しており信頼性も認められる。したがって、被告の実施した推計の方法は、特段の事情がない限り合理性があるということができる。
2 原告の主張に対する判断
(一) これに対し、原告は、平成三年分の請負工事収入に取引のない村武建設のものが含まれているから、被告の推計は不正確である旨を主張する。
しかし、証拠(乙一九)によれば、村武建設は、平成三年にも原告と取引があった旨を回答しており、本件全証拠によっても、これを覆すに足りる事情は認められない。
よって、原告の右主張は、前提の事実を欠き理由がない。
(二) また、原告は、手間収入につき、比準同業者数が少数にすぎ、そのため、年分によって所得率の開差が大きくなっているので、他の税務署の管内にまで比準同業者の抽出対象地を広げるべきであった旨を主張する。
しかし、板金工事業も経済情勢や社会情勢による景気変動を受け収入や所得率が変動し得ることは当然であり、年分によって所得率に開差があること自体は異とするに当たらない。また、本件においては、比準同業者の数は二件ないし四件確保されていることは当事者間に争いがなく、本件全証拠によっても、これらの比準同業者に、推計を不合理ならしめる程度に顕著な個別的な営業諸条件の差異があると認めることはできない。また、原告は、比準同業者の抽出対象地域を、他の税務署の管内にまで広げるべきであると主張するが、そのように広げれば、立地条件の類似性が損なわれる可能性があり、必ずしも推計をより合理的なものにするとは限らない。
よって、原告の右主張は理由がない。
3 まとめ
以上によれば、1において見た被告の推計の方法は、合理的なものと認めることができる。
五 実額反証の当否
1 実額反証の法的性質
所得税の課税が本来実額に対してされるべきものであることは前記三のとおりであるから、本件訴訟で被告の主張する推計につきその必要性及び合理性が認められるとしても、原告が実額を立証した場合には、推計による所得に代えて右実額による所得をもって課税標準とすべきである。
しかし、この場合、真実の所得の立証なのであるから、原告の主張に係る売上金額の存在のみならず、立証額が実際の売上げのすべてであって別に売上げがないことまでが立証されなければならず、また、経費についても、その主張に係る金額の存在のみならず、立証額がすべて実際の経費であって架空経費が計上されていないこと及び経費と収入金額との対応関係があることまでが立証されなければならないと解される。
2 本件における原告の実額反証の程度
(一) 帳簿の不存在
前記1のとおり、真実の所得額の立証を行う場合に立証額が実際の売上げのすべてであること、また立証額がすべて実際の経費であることを立証するためには、その原始資料である請求書・領収証等のみを提出するだけでは足りず、日々継続的に記帳された会計帳簿の提出が必要不可欠であると解される。なぜなら、原始資料は、もともと当該取引以外には取引が存在しないことや収入と経費との対応関係までを立証するには不十分である上、破棄又は集計の対象から外すことによって容易に恣意的に金額の操作を行うこともできるからである。
原告は、本件訴訟において、本件各係争年分に係る収支元帖(甲六三の一ないし二六、甲六四の一ないし二六、甲六五の一ないし二五)を提出するが、証拠(証人小川勝也。同証人調書二二頁)及び弁論の全趣旨によれば、これは小田原民商の事務局員が事後的に作成した集計表ともいうべきものであって、前記の意味における日々継続的に記帳された会計帳簿とはいえない。
(一) 原始資料の信用性の有無
(1) 収入関係
原告とその取引先の一つである株式会社アダップ(以下「アダップ」という。)との取引については、原告がアダップに交付した請求書(乙二六の一ないし三)に対応する請求書控えが原告から提出されていない(甲二三・二四・四〇ないし四二参照)。また、右交付済みの請求書のうち乙二六の一及び二の様式記号は「コクヨ・ウ・一一二二」であるにもかかわらず、この様式記号が付された他の取引に係る請求書控えが原告から提出されていない。したがって、原告が実額反証として提出した請求書控えの他に右様式記号の付された請求書の綴りが別に存在するものと推認される。
次に、原告と日比野稔(以下「日比野」という。)との取引については、原告が日比野に交付した領収証(乙二四の別添2)に対応する領収書控えが原告から提出されていない。また、右交付済みの領収書の様式記号が「コクヨ・ウケ・三六」であるところ、この記号が付された他の取引に係る領収書控えが原告から提出されていない(甲九の一ないし一二、甲一〇の一ないし一二の写しからはこれらの様式記号が必ずしも明らかではないが、被告のこの点についての指摘に原告は何ら反論していない。)。したがって、原告が実額反証として提出した領収書控えの他に右様式記号の付された領収書の綴りが別に存在するものと推認される。
また、原告と岩崎常吉との取引については、原告が同人に交付した領収証(乙二五添付のもの)に対応する領収書控えが提出されていないことは、領収証の様式記号の不一致(甲二五の一五との不一致。この点も書証の写しからは必ずしも明らかではないが、被告のこの点についての指摘に原告は何ら反論していない。)から明らかであり、このことから原告が実額反証として提出した領収書控えの他に領収証綴りが存在することが推認される。
さらに、原告と鈴木貞夫との取引については、領収証(乙二七添付のもの)に対応する領収書控えが原告から提出されていないので、原告が実額反証として提出した領収書控えの他に領収証綴りが存在することが推認される。
なお、仮に、右のような請求書・領収証の様式記号の不一致が、他に請求書・領収証の綴りが存在することによるものではなく、勝也が本法廷において証言するように、作成をし忘れたり、又は逸失した分について、辻褄合せに作成し直したことによるものであるとすれば(勝也調書九三頁)、このような事情が存すること自体が、原告が実額反証として提出した原始資料により取引に係る売上げのすべてが立証されるかにつき少なからぬ疑問を抱かせるといわざるを得ない。
(2) 支出関係
原告が、給与賃金及び労務費の支出の証明のため、給与支払明細書の控え(甲一三の一ないし一八、甲二九の一ないし一一、甲三〇の一ないし一一、甲四八の一ないし一三、甲四九)を提出し、勝也は、これらのうち自分についてのものは毎月末に自分が記載していた旨を証言する(勝也調書六五頁)。しかし、証拠(乙二八)によれば、これらの給与支払明細書のうち、原告が平成元年分として提出する様式記号「コクヨ・シン・一一三N」のものは、平成四年一一月に製造販売が開始されたものであり、平成元年当時は存在していなかったと認められ、勝也は、この点について被告の追及を受けた際、右の事実を否定するでもなく、理路の乱れた証言をするにとどまる(勝也調書六八・六九頁)。
また、修繕費・消耗品費・水道光熱費・保険料・通信費・地代家賃については、その支払を証する資料の提出がなく、租税公課・車両燃料費については、原告の提出する書証には、原告が受領したものかどうか明らかでないものが含まれている。さらに、福利厚生費については、その金額の算定根拠となるものがなく、接待交際費には勝也の記憶によるものにとどまるもの、事業との関連性が不明なものが含まれている。減価償却費については、その対象資産の取得価額の根拠となるものがなく、また、そのうち事業用の車両については、家事関連費に属するものがあると疑われる。
(三) その他
本件訴訟においては、原告が真実の事業所得と主張する金額が変遷しており、このことは、原告の主張に係る実額の信用性が乏しいことの現れといえる。
3 まとめ
以上によれば、原告の実額反証の内容は、前記1に述べた基準を満たすものには至っていない。
よって、原告の実額反証に関する主張は理由がない。
六 結論
以上の次第であり、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 弘中聡浩 裁判官近藤壽邦は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 岡光民雄)
(別紙甲の1)
平成元年集計表
<省略>
平成 元年分 売上
(請負売上)
<省略>
平成元年分(手間売上)
<省略>
仕入(星崎久吉商店のみ)平成元年
<省略>
給料・賃金
<省略>
労務費
<省略>
福利厚生費
<省略>
減価償却費
<省略>
地代・家賃
<省略>
修繕費
<省略>
消耗品費
<省略>
水道光熱費
<省略>
租税公課
<省略>
交際接待費
<省略>
保険料
<省略>
通信費
<省略>
(別紙甲の2)
平成2年集計表
<省略>
平成 2年分 売上
(請負売上)
<省略>
(請負売上)(つづき)
<省略>
(手間請負売上)
<省略>
(手間請負売上)(つづき)
<省略>
(自家消費売上)
<省略>
仕入(星崎久吉商店のみ)平成2年分
<省略>
仕入(星崎久吉商店のみ)平成2年分(つづき)
<省略>
給料・賃金
<省略>
労務費
<省略>
福利厚生費
<省略>
減価償却費
<省略>
地代家賃
<省略>
修繕費
<省略>
消耗品費
<省略>
消耗品費(つづき)
<省略>
水道光熱費
<省略>
旅費交通費
<省略>
租税公課
<省略>
交際接待費
<省略>
保険料
<省略>
通信費
<省略>
諸会費
<省略>
車両燃料費
<省略>
車両燃料費(つづき)
<省略>
雑費
<省略>
(別紙甲の3)
平成3年集計表
<省略>
平成 3年分 売上
(請負売上)
<省略>
(請負売上)(つづき)
<省略>
(手間売上)
<省略>
<省略>
仕入(星崎久吉商店のみ)平成3年分
<省略>
仕入(星崎久吉商店のみ)平成3年分(つづき)
<省略>
平成 3年分 経費
給料賃金
<省略>
労務費
<省略>
福利厚生費
<省略>
減価償却費
<省略>
地代家賃
<省略>
修繕費
<省略>
消耗品費
<省略>
消耗品費(つづき)
<省略>
水道光熱費
<省略>
旅費交通費
<省略>
租税公課
<省略>
交際接待費
<省略>
保険料
<省略>
通信費
<省略>
諸会費
<省略>
車両燃料費
<省略>
車両燃料費(つづき)
<省略>
雑費
<省略>
(別紙乙)本件更正処分の根拠
一 事業所得の金額及びその計算根拠
被告が、本件訴訟において主張する原告の本件各係争年分の総所得金額(事業所得の金額)及びその計算根拠は、次のとおりである。
1 平成元年分
平成元年分の事業所得の金額は、六二五万三九五〇円であり、その算出経過は、次表のとおりである。
<省略>
(一) 総収入金額 一三五〇万〇六二〇円
右金額は、原告の営む板金工事業に係る平成元年分の請負工事収入及び手間収入の合計額であり、その内訳は、別紙乙の1「収入金額の取引先別の内訳表」の「平成元年分」欄記載のとおりである。
(二) 比準同業者の平均特前所得率
請負工事収入に係る平均特前所得率 三七・四二パーセント
手間収入に係る平均特前所得率 六四・二四パーセント
右各所得率は、原告が請負工事収入及び手間収入を得ていたこと(別紙乙の1の「平成元年分」欄参照)から、原告の総収入金額を請負工事収入及び手間収入に区分し、それぞれの収入金額を基に、原告の事業所が所在する小田原税務署管内及び平塚税務署管内において、原告と同様に板金工事業を営む青色申告の個人事業者で、かつ、その事業規模が原告の請負工事収入に係る事業規模あるいは手間収入に係る事業規模と類似する者(比準同業者)を抽出し、比準同業者の平成元年分の事業所得に係る総収入金額に対する特前所得金額(総収入金額から売上原価及び経費の額を控除して算定した青色申告特典控除前の所得金額)の割合(特前所得率)の平均値(平均特前所得率。別紙乙の2の1参照。ただし、小数点第五位以下四捨五入。)をそれぞれについて求めたものである。
なお、比準同業者の抽出基準等については、後記二のとおり。
(三) 事業専従者控除額控除前の所得金額 六二五万三九五〇円
右金額は、右(一)の総収入金額の内訳となる請負工事収入金額及び手間収入金額の各金額に、右(二)の各比準同業者の平均特前所得率をそれぞれ乗じて算出したものの合計額である。
(四) 事業所得の金額 六二五万三九五〇円
原告には、原告と生計を一にする親族で専ら原告の営む事業に従事するもの(以下「事業専従者」という。)がいないため、右金額は、右(三)の事業専従者控除額控除前の所得金額と同額となる。
2 平成二年分
平成二年分の事業所得の金額は、五七八万三二一五円であり、その算出経過は、次表のとおりである。
<省略>
(一) 総収入金額 九六三万九五六九円
右金額は、原告の営む板金工事業に係る平成二年分の請負工事収入及び手間収入の合計額であり、その内訳は、別紙乙の1「収入金額の取引先別の内訳表」の「平成二年分」欄記載のとおりである。
(二) 比準同業者の平均特前所得率
請負工事収入に係る平均特前所得率 四三・二七パーセント
手間収入に係る平均特前所得率 九一・八四パーセント
右各所得率は、それぞれ前記1(二)と同様の方法で算出したものである。
(三) 事業専従者控除額控除前の所得金額 五七八万三二一五円
右金額は、右(一)の総収入金額の内訳となる請負工事収入金額及び手間収入金額の各金額に、右(二)の各比準同業者の平均特前所得率をそれぞれ乗じて算出したものの合計額である。
(四) 事業所得の金額 五七八万三二一五円
原告には事業専従者がいないため、右金額は、右(三)の事業専従者控除額控除前の所得金額と同額となる。
3 平成三年分
平成三年分の事業所得の金額は、六一九万六五二七円であり、その算出経過は、次表のとおりである。
<省略>
(一) 総収入金額 一一五一万五五五〇円
右金額は、原告の営む板金工事業に係る平成三年分の請負工事収入及び手間収入の合計額であり、その内訳は、別紙乙の1「収入金額の取引先別の内訳表」の「平成三年分」欄記載のとおりである。
(二) 比準同業者の平均特前所得率
請負工事収入に係る平均特前所得率 四二・六二パーセント
手間収入に係る平均特前所得率 七八・三四パーセント
右各所得率は、それぞれ前記1(二)と同様の方法で算出したものである。
(三) 事業専従者控除額控除前の所得金額 六一九万六五二七円
右金額は、右(一)の総収入金額の内訳となる請負工事収入金額及び手間収入金額の各金額に、右(二)の各比準同業者の平均特前所得率をそれぞれ乗じて算出したものの合計額である。
(四) 事業所得の金額 六一九万六五二七円
原告には事業専従者がいないため、右金額は、右(三)の事業専従者控除額控除前の所得金額と同額となる。
二 比準同業者の抽出方法
1 請負工事収入に係る比準同業者
小田原税務署及び平塚税務署の管轄地域内において、原告と同様の板金工事業を営む個人事業者のうち、請負工事収入のみがあり、次の各基準のすべてに該当する者を、比準同業者として別紙乙の2の1ないし3の各Ⅰのとおり抽出した。
イ 板金工事業を営む者(ただし、手間収入のない者に限る。)
ロ 小田原税務署長及び平塚税務署長のいずれかの税務署長に所得税の確定申告書を提出しており、かつ、所得税の確定申告書を提出した税務署管内に事業所を有する者
ハ 青色申告の承認を受けている個人の事業所得者で、青色事業専従者のいない者又は青色事業専従者が事務のみに従事する者
ニ 事業所得に係る総収入金額が次の範囲内(原告の収入金額の二分の一以上二倍以内)である者
(イ) 平成元年分については、四五〇万九四一〇円以上一八〇三万七六四〇円以下
(ロ) 平成二年分については、三一六万〇一四五円以上一二六四万〇五八〇円以下
(ハ) 平成三年分については、三九五万四〇二五円以上一五八一万六一〇〇円以下
ホ 年を通じて前記イの事業を継続している者
ヘ 次に該当しない者
(イ) 災害等により経営状態が異常であると認められる者
(ロ) 更正又は決定処分がされている者のうち、次のA又はBに該当する者
A 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していない者
B 当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起されて、現在審理中である者
2 手間収入に係る比準同業者
小田原税務署及び平塚税務署の管轄地域内において、原告と同様の板金工事業を営む個人事業者のうち、手間収入のみがある者については、次の各基準のすべてに該当する者を比準同業者として、別紙乙の2の1ないし3の各Ⅱのとおり抽出した。
イ 板金工事業を営む者
ロ 小田原税務署長及び平塚税務署長のいずれかの税務署長に所得税の確定申告書を提出しており、かつ、所得税の確定申告書を提出した税務署管内に事業所を有する者
ハ 青色申告の承認を受けている個人の事業所得者で、青色事業専従者のいない者又は青色事業専従者が事務のみに従事する者
ニ 事業所得に係る総収入金額が次の範囲内(原告の収入金額の二分の一以上二倍以内)である者
(イ) 平成元年分については、二二四万〇九〇〇円以上八九六万三六〇〇円以下
(ロ) 平成二年分については、一六五万九六四〇円以上六六三万八五五八円以下
(ハ) 平成三年分については、一八〇万三七五〇円以上七二一万五〇〇〇円以下
ホ 青色申告決算書の売上原価欄の差引原価の金額がない者
ヘ 年を通じて前記イの事業を継続している者
ト 次に該当しない者
(イ) 災害等により経営状態が異常であると認められる者
(ロ) 更正又は決定処分がされている者のうち、次のA又はBに該当する者
A 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していない者
B 当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起されて、現在審理中である者
(別紙乙の1)
収入金額の取引先別の内訳表
<省略>
(別紙乙の2の1)
Ⅰ 平成元年分平均特前所得率(請負収入のみの者)
<省略>
Ⅱ 平成元年分平均特前所得率(手間収入のみの者)
<省略>
(別紙乙の2の2)
Ⅰ 平成2年分平均特前所得率(請負収入のみの者)
<省略>
Ⅱ 平成2年分平均特前所得率(手間収入のみの者)
<省略>
(別紙乙の2の3)
Ⅰ 平成3年分平均特前所得率(請負収入のみの者)
<省略>
Ⅱ 平成3年分平均特前所得率(手間収入のみの者)
<省略>